【廣瀬・後藤×のぞみの家】インタビュー:のぞみの家 少年指導員・町田和行さん
※本稿は、展覧会「表現の森 協働としてのアート」(2016/7/22-9/25)に関連したインタビューです
人が集まる重要な力
のぞみの家 少年指導員・町田和行さん
2013年に実施した〈空のプロジェクト〉から施設側のスタッフとして、お母さん達と子どもたちとプロジェクトを繋ぐ重要な役割を果たしてくださった町田さん。これまでのプロジェクトを通して、子どもたちやお母さん達の様子、町田さんご自身が感じたことなどを伺った。
廣瀬智央・後藤朋美×のぞみの家>>
19年という時間が、現在の視点を変える
――はじめに、今回の〈タイムカプセルプロジェクト〉の感想を教えてください。
ここの子ども達が他の大人と交流をもっていろいろな体験をしたことは宝物。そういう意味では、今のぞみの家にいた子はラッキーだと思う。お母さん達は〈空のプロジェクト〉の時と違って、(タイムカプセルを開封する)19年後のことを考えていた。子ども対して今までにない視点があり、はたと気づいたことがあったようだ。「こうしたい、ああしたい」ということが出てきたと今回感じた。実際にお母さんからそういう声があった。
19年後に子どもが25歳になるとしたら、自分が25歳だった頃のことをお母さんは考える。そうすると、自分が子どもの年齢だった時どうだったかを思い出して、その時の思いが甦る――その時の自分が親にどういう思いを持っていたかという視点。そして、「親であればこうしなきゃいけない」というふうに思っていたものが、少し緩和されたようなことをおっしゃっていた。
――自分で背負わないといけないものもあって、しっかりしなきゃというプレッシャーもある。
みんな背負っている。母子家庭だとなおさら、周りから後ろ指をさされたくないとか、プレッシャーがあるのではないか。だから、19年後というテーマも良かったのではないかと思いました。
――最後のタイムカプセル封印の会に来たお母さんは、初めてのこのプロジェクトに参加する人も多かったようです。
これまでのプロジェクトの経緯を話して、その上で参加してもらいました。お母さんがその上で、19年後へ向けた手紙を書きました。
――町田さんご自身の何か発見はありましたか。
19年後本当にこの世に存在するか真剣に考えた。なんだかんだ杖をついても、元気なじいさんになっているかもね。子ども達に「元気でねぇ」とか言われてそう(笑)。
アートは、絵とか美しいとか狭いものではなく、人が集まる重要な力がある
――美術館のイメージは〈空プロジェクト〉や〈タイムカプセルプロジェクト〉を通して変化しましたか?
すごく変わった。有名な絵画を見るのは好きで、前橋に美術館ができると聞いて、そういうものができると思っていた。アーツ前橋やごっとん(注:後藤朋美)との関わりを通して、絵とかだけじゃなくて幅広く「アート」を感じた。絵とか美しいとか狭いものではなく、人が集まる重要な力があるというのを感じた。可能性がすごくある。それをアーツ前橋がやっているのはすごいと思った。
――「表現の森 協働としてのアート」展で展示になったものを見てどう思いましたか?
正直あまり心に響く展示物はなかったが(笑)、ワークショップとか企画とか、人が集まって、人が生き生きしている姿を見て感動した。「ギブミーベジタブル」(注:2016年秋に開催した食をテーマにしたアーツ前橋企画展の関連イベント)へボランティアで来ている人も生き生きしていた。
――シンポジウムへもご参加していただきましたが、いかがでしたか?
結果的に何を話したのか覚えていないんだけど、その場所に行けたというのがいい体験になった。他の登壇者のみなさんもその道のプロフェッショナルなので、それぞれ意見や思いをもっているというのがわかった。のぞみの家の職員としての立場で参加したので、参加者の個人情報に気を使わないといけない立場で、その辺の枠がかなりあって、しゃべりづらかった部分もたくさんある。説明するにしてもちょっとやりづらかったと感じた。円卓について関係者で座って話すという形はリラックスできた。
魅力的な活動が関係と出会いをつくる
――19年間、今後どんなプロジェクトをやっていったらいいと思いますか。あるいはこの半年間で感じたプロジェクトの課題などもあれば。
もっと本当は自由にやりたい。いろいろな制約はあるが、お母さんたちも自由に発信したり、やりたいことをやったりする空気が欲しいなと思った。
――施設長の内藤さんからも、例えば料理教室をやってみたいという声が職員からもあったが、なかなか予定を合わせたりするなど実施が難しいという声もありました。
タイムカプセルプロジェクトの料理の会も、やってみたら結果的に楽しかった。楽しそうだから参加する、そういうものだと思う。
――町田さんのご協力があったからこそできたところがあると思います。職員さんの入れ替わりがあったりするかもしれないので、継続をしていく面ではそこが気になっています。(注:町田さんは2016年3月末でご退職)
現状を引き継ごうという考えで、その時その時の施設との関係を作っていく努力が必要かもしれない。入居者も年齢が下がってきている。入れ替わりが激しく、名前を覚えたなと思ったら出ていくことがある。チャイムが鳴るだけで緊張する方もいる。
――毎回新しく出会い直すというか、そういう気持ちでいたほうがいいかもしれないですね。
魅力があれば、みなさん出てきてくれるとは思う。お料理の会もその例の1つかも。
――継続という意味では、出て行った方との連絡も課題です。
一部の方はなかなか連絡がつかないという例もあるが、それ以外の方もいる。年賀状で、年に1回集まったりなどの話も施設内であったが金銭的に難しい。近辺に住んでいれば関係は続くが、県外へ出ていく人も多いですね。でも覚えている人はきっといると思う。過去の入居者が今でものぞみの家を訪ねてきてくれることもあります。
アーツ前橋ということではなく、関わってきた個人個人の魅力で関係が作れるところもあるのかもしれない。
――関わっている人が関わり続けたいという魅力を持ち続けることが必要なのかもしれませんね。
あるいは2035年に、アーツ前橋が開封についての方への呼びかけをする必要があると思う。そうすると関わっている人は来てくれるかもしれない。
――確かにそのことはよく考えます。開封する何ヶ月前に連絡を開始するべきか…など。例えば、映画を作って全国上映をして発信するとか?プロジェクトに参加していない人にも共有してもらえるかもしれない。また、のぞみの家以外の人もタイムカプセルプロジェクトに参加できるようにするなど、プロジェクト自体も開いて行く方向性を廣瀬さんと検討しています。
それも面白いですね。可能性がいろいろある感じですね。
(インタビュー=2016年11月2日、のぞみの家にて/聞き手=後藤朋美、小田久美子、今井朋/構成・投稿=小田久美子)