音の玉手箱(2019年度) in じゃんけんぽん大利根前橋(2回目)
日時:2019年7月22日(月)14:30〜15:30
場所:じゃんけんぽん大利根前橋 小規模多機能の家(以下、STK)、グループホーム(GH)
アーティスト:石坂亥士(神楽太鼓奏者)、山賀ざくろ(ダンサー)
スタッフ:岡安賢一(映像記録)、今井朋(アーツ前橋)、木村祐子・小田久美子(コーディネーター)
ゲスト:山口智晴氏(群馬医療福祉大学)
参加者数:利用者25人(ご家族1人)、施設職員8人、ボランティア2人、スタッフ等関係者7人
スケジュール
14:00〜14:30 アーティスト、スタッフ会場入り、施設職員と打ち合わせ
14:30〜15:00 小規模多機能の家でのワークショップ
15:00〜15:30 グループホームでのワークショップ
15:10〜16:00 施設職員との振り返り
16:00〜17:30 アーティスト、スタッフ、ゲスト振り返り
フォトレポート
今回はじゃんけんぽんのボランティアさんも関心を持って参加してくださることになりました。
まずは、スタッフの事前打ち合わせで自己紹介をした後、今日の流れの確認と言葉ではなくリズムや体の動き表情などでコミュニケーションをとることをしているということをコーディネーターやアーティストより伝えました。
前回5/8のワークショップと同じ流れで、小規模多機能とグループホームでそれぞれ開催しましたので、主な場面をご紹介します。
利用者の反応や施設職員の感想
・普段の様子からこのワークショップが苦手そうな人も、笑顔だったので驚いた。
・部屋に入って閉じこもっていた方もいた。今回初めてワークショップの時間にいたので、びっくりしちゃったかも。通所していてほとんど在宅介護を受けている方で、普段からテレビもつけず音のない生活をしている人。でも、その後はおやつも食べられていた。
・前回のワークショップでは音に敏感な方が来所していない日を選んだが、今日その方は最後はいい反応していた。予想外の反応で、職員も驚いていた。気分の浮き沈みが激しいが、面白おかしくおしゃべりしたり、歌を歌って人を喜ばせたい性格の方。音に敏感なので、大きい音で怒りだしちゃわないかなと心配していたが、全然違う反応でむしろ楽しんでいる様子があったのですごくよかった。
・小規模の方は、参加ムードになっていて、普段大人しくてうとうとしている人も楽器を持たせてみるとにこっとしていいなと感じた。全体で雰囲気ができている感じ。テンションとエネルギーはすごかった。
・夕方になると認知症の症状で家に帰るという訴えがあったりする方が、すごく発散している様子があったので、この後の反応が気になる。前回は怒るような反応をしていた方は、今日はにこにこして振ったり、いろんな仕草で前回と違う反応があった。なんとなく覚えているのか、今回もできてよかったよという反応があった。
・グループホームでは、普段よく反応がわからない人が、周りが楽しそうな様子を見てよかったという反応をしていた。毎日は嫌だけどたまにはいいよね、という感じだった。
・音を通してスタッフも利用者さんも一緒になれる、楽しむということができたと思う。普段から一緒に発散できたらいいのかなと思った。
・気がつけば木琴を両手でやっていた男性は、最後に疲れたと言って満足そうだった。
・太鼓の音がお腹に響いたり、体の中でリズムでいい影響があったのではないか。普段血圧が80くらいの人が120くらいに上がっていた。
・小規模は訪問で外出していることが多い。スタッフも人数がいるようで出たり入ったりしているので、ワークショップでゆっくり関われるのは新鮮でよかった。認知症の方が多くて、言葉が通じない方も何人かいらっしゃるので、そうじゃないコミュニケーションができるといい。違う刺激と反応があると良いと思った。
アーティスト、スタッフ、ゲストの感想
・今回初めてじゃんけんぽんを訪れ、えいめいと比べて、職員の反応や場の空気が違うのが印象的だった。えいめいは特養で利用者の人数も多く少し病院のような空間だが、じゃんけんぽんは建築や掲示物、人数などもできるだけ家に近づけているのでアットホームで暖かい感じがする。
・あえて楽器を無理に振らせたりせず、ほっておくということができると良い。持っておくくらいでもよい。言葉ではなくて、やりたいことがあれば任せておくというほうがいいのではないか。今回のワークショップで、言葉で話しかけなくても良いと改めて良いと思った。盛り上がらなくても良いかなと思う。お年寄り時間、個人のあり方があると思って、僕たちと違って面白い。
・ご家族の方が横にいて何かやっていて。家族に楽器をにぎらせたりしているのはワークショップとしてはもしかしたらよくないかもしれないけど、愛情を感じた。
・反応がない方でも刺激し続けているとだんだん動き出している部分もあったし、1人1人の接触の刺激を与えてみた。そうするとだんだん手が動いたりしてきた。端にいたYさんが、鏡を見て自分の動きを見て反応しているのがあった。ざくろさんの動きに対する反応より、自分自身で動いている様子があり、亥士さんに音を頼んだら、反応していた。ものをつかむような仕草。
・人数が少ないから長時間関われるが、えいめいなど施設規模が大きいところはそこが難しく、違いでもあると思う。
・Yさんは、動きで感情を表したり、体をこすって怖い顔したりとか。何かをひろう動作が演技?自然発生?何か見えている?よくわからないが、すごくシャーマニックに感じた。一瞬あの場を支配したぐらい強かった。ポジティブとネガティブな反応が入り混じっていて、唐突に言葉でバカって言っても表情は明るかったり。何か目に見えないものが見えているようにしか見えなかった。境界線を越えた。
←(施設のスタッフさんより)感性は豊かだと思う。普段もそんなに会話になるわけではなかった。気分の上げ下げが本当に激しい方。ちょっと前までは怒ったり喜んだりが激しかったが、最近は沈んでいた中で、今日この反応だったのでびっくりした。
・医療福祉の現場では、こうした反応は幻視で終わらせてしまいがち。
・普段、医療福祉の現場で行われているレクリエーションは、はじめにレクを始めますよ、と言って始める形が多い。そのあたりのコミュニケーションがうまい介護士さんは、相手の反応を見てのせたり引いたりできるが、アーティストは音やリズムでそれをやっているのがすごいと思った。こういう福祉の研修があっても良いのではないか。言葉ではない方法で相手の反応を引き出す、工夫を試行錯誤する。日々仕事で忙しくて、「さぁ、やりますよ」と一斉にやりがち。相手と同じ土台に立って駆け引きすることが、このワークショップでは新鮮でそういうやり方がいいなと思った。そして、全体でなんとなく場を共有している感じ、みんながニコニコしていたからよかったという声に「なるほどな」と思った。その反応と、普段の生活とは違う一側面を拾えたというのがアウトカムかもしれない。
・アーティストだけでなく、施設のスタッフやボランティアさんなど一緒に間に入って関わる人も増えると良い。とはいえ結局現場を体験して、リフレクションしながら経験を積むしかないのかもしれない。活動に入る前に映像を見てみるのもいい形か。とにかく、一緒に参加して自分が楽しむことが大事かと思う。
今秋に開催する「表現の生態系」会期中に、医療福祉関係者を対象にワークショップ体験も含んだ研修会を実施する方向で調整することになりました。
(写真=今井朋・小田久美子、編集・投稿=小田久美子)