音の玉手箱(2019年度) in じゃんけんぽん大利根前橋(1回目)
日時:2019年5月8日(水)14:30〜15:30
場所:じゃんけんぽん大利根前橋 小規模多機能の家(以下、STK)、グループホーム(GH)
アーティスト:石坂亥士(神楽太鼓奏者)、山賀ざくろ(ダンサー)
スタッフ:岡安賢一(映像記録)、今井朋(アーツ前橋)、小田久美子(コーディネーター)
ゲスト:山口智晴氏(群馬医療福祉大学)
参加者数:STK13人+GH10人(うちご家族1人)
施設職員:STK6人+GH9人
スケジュール
14:00〜14:30 アーティスト、スタッフ会場入り、施設職員と打ち合わせ
14:30〜15:00 小規模多機能の家でのワークショップ
15:00〜15:30 グループホームでのワークショップ
15:10〜16:00 施設職員との振り返り
16:00〜17:30 アーティスト、スタッフ、ゲスト振り返り
フォトレポート
過去3年度のえいめいでの実践を経て、今年度はえいめいでの活動も継続しつつ、利用者さんの人数が少ない施設で実践を試すことにしました。
今回ワークショップ実施にご協力いただいたのは、NPO法人じゃんけんぽん大利根前橋です。
利用者ご本人やご家族の要望に応じて通い、泊まり、在宅訪問を組み合わせて利用できる「小規模多機能の家」(STK)、認知症対応型の入居施設である「グループホーム」(GH)、地域住民も利用者の方々も集まって交流できるスペース「近隣大家族」の3つの機能が集まった施設です。
施設とつながりのあったざくろさんを通して打診し、2月に簡単な打ち合わせと現場下見を済ませていたため、アーティスト到着後、早速職員さんと事前打ち合わせを行いました。
全体の流れの確認し、普段の利用者さんの様子から「ワークショップは初めてなのでどんな反応か予想がつかない」という期待のほか、「シャイな人が多いので、あまりのってこない人もいるかもしれない・・・」との少しの心配の声も。
時間になったので、利用者の方が待つ広間へ、とん、とん、ととん、と太鼓でリズムを少しずつ鳴らしながら移動します。
はじめは「小規模多機能の家」からスタートです。
これまでのえいめいでの取り組みと同様、1箇所に利用者さんを集めて自己紹介等は特にすることなく、じわじわっと音とダンスが空間に入っていくような形でスタート。
亥士さんの刻むリズムやざくろさんのダンスが、あいさつの代わりです。
気がつけば、どんどんリズムを刻む人、楽器を振りながら歩いて回る人、そのまま眠り続ける人、表情は変わらなくとも目でじっとアーティストの動きを追う人、楽器を振り合う利用者さんと職員さん、その様子を笑顔で撮影する職員さん・・・各々の様々な反応が同じ空間に共存していました。
亥士さんがリズムを変えながら太鼓を叩き、利用者さんも合わせて最後のリズムをポンと合わせて、約30分のワークショップが終了しました。
続いて、事務所を挟んですぐ隣にある「グループホーム」へ移動します。
始まり方は小規模多機能の家と同様ですが、居室からおやつの時間にまだ起きてこない利用者さん2人を亥士さんが太鼓の音とともにお迎えに行くという新しい試みを行いました。
まずはお一人目。太鼓の音と亥士さんに気がつくと、普段は起きるときに手を伸ばさないそうですが、今回はすぐに手を伸ばし、職員さんの支えで体を起こしました。
続いて、もうお一方。
立ち上がるのもいつもより早かったとのことで、職員さんも驚いた様子。
一方その頃、広間はすでにリズムで満たされていました。
リズムに刺激されたのか、途中からずっと歌ってくださった方もいらっしゃいました。
職員さんがすかさず歌詞カードを持ってきてくださり、アンコールです。
それぞれの施設でえいめいの約6分の1ほどの人数でしたが、様々な出来事が起こったワークショップでした。
この後、控え室で職員さんたちと振り返りを行い、利用者さんの反応や職員さんが気づいたことや感想の共有を行いました。
利用者の反応や職員の感想
・言葉が出ず、体が動かない人も表情が変わった。
・誘っても拒否している人がいたが、その時の気分によって反応が大きく変わる人。でも、広間から出て行くことはなかった。
・音の世界の中で、それぞれの個性が出ていた。言葉より、音の表現に反応できている人がいた。
・トイレから出てきてワークショップに気づき、端っこリズムにのっている方がいて、声をかけて誘い広間の中へきてもらった。最後まで楽しそうにしていて良かった。
・居室にいた方は、太鼓で起こすと音にびっくりするのかと思っていたが、ハッと目が覚めた後は自然とのってきて笑顔になっていた。すぐに体を起こして、立ち上がるなど普段より「起き」が良かった。想像していた反応と違った。
・人見知りすると思っていた人もノリノリだった。
・体が拘縮している人もずっと目で追っていた。嬉し涙も出ていた。
・体ごと動いている人もいたので、大きな太鼓があると良さそう。
・最初から最後まで音の中で寝ている人もいて驚いた。
・普段そんなに自己表現(発信)する人ではない人が、ずっと参加していた。意外な一面を見た。
・そんなに動けたのか、という人もいた。
・はじめは「何か来た?」という感じだったが、だんだん連鎖していった。特に戸惑いや抵抗感はないようだった。
・シンバルなどの金属音はうるさく感じている人もいるようだったが、太鼓やマラカスなどの音は大きくても馴染んでいた。「本物」の楽器が良かったのかもしれない。
・普段は大きな音を出さないようにしていて、職員が太鼓を手作りした際も、バチを布で巻いて低い音が出るように工夫していた。しかし、今日は太鼓の大きな音などでも大丈夫だったので驚いた。
・たくさんの音の中でも歌を歌っている人がいて驚いた。
・他にも手作りの楽器を作ってみたい。
・事前にご家族にもワークショップについて案内したところ来てくださった方もいて、利用者さんの様子を撮影したり楽しんでくださった様子だった。
・太鼓のスピードに合わせてみんながそれぞれで反応していた。
・それぞれで楽しんでいるのに、全体ではまとまっている感じもあって不思議だった。
・施設の中で最も重度な利用者さんが普段ほとんど目を開くことがないが、亥士さんの音につられて、目がぱちぱち反応していた。
アーティスト、スタッフの感想
・リズムは緩やかなカーブをえがくとお年寄りもついてくる。お年寄りのリズムに合わせて太鼓を叩いた。
・今日の太鼓は音がまろやかな感じで、心臓と同じ三拍子のリズムを打った。会場の熱気とリズムがだんだん合ってくる。
・日頃の利用者さんと職員さんの関係性ができていて、その延長線上でこのワークショップを利用者さんが楽しんでいると感じた。
・小規模の個人に合わせた介護を行なっている施設ならではの良さがあった。
・生活音のうるささと太鼓(音楽)のうるささは違う。また、様々な楽器で様々な音があるのが良いと思う。楽器を作る場合も、音の良さにもこだわって作ると良い。
この後もアーティストとスタッフ、ゲストで意見交換を行いました。
会場の大きさや利用者の配置、職員との連携、えいめいとの施設規模の違いによるワークショップの変化やその検証方法、今年度の活動方針などについて話し合いました。
(写真=今井朋・小田久美子、編集・投稿=小田久美子)