音の玉手箱(2018年度) 第3回10月26日
「音の玉手箱」の活動報告です。
日時:平成30年10月26日(金) 15:00〜15:35
参加者:80人(利用者 65人+職員 5人)+スタッフ等関係者 10 人
▼報告書
画像クリックで拡大します。木村祐子(コーディネーター)作成。
*特別養護老人ホームえいめいの利用者さんのご家族へ配布したものです。
小田久美子(コーディネーター)による報告
以前より岡安氏の映像を通してえいめいの活動に関心があり、軽井沢で福祉施設を近く開所する予定である藤岡氏とその子ども3人も加わってのワークショップ(以下、WS)となった。前回までの反省を踏まえ、特養職員に開始直前に廊下に集まってもらい、事前に短い情報共有を行った。当初の予定では、本WSに興味のない人は途中退席しても良いこと(実際には車椅子で自力移動できる人2〜3人程度は自主的にWS前に離席した)、関心のある人を一箇所に集めるあるいはアーティストと対面できるようにしたいこと、無理に盛り上げなくても良いことを伝える予定ではあったが、実際には楽器を配って欲しいこと、一緒に楽しんで欲しいこと、(職員からの質問で)マイクなどは利用せず自然に入っていくことなど最低限のことを伝え、お茶の時間が終わった合図を特養職員からもらって開始した。結果的にこれまであまり参加していなかったタイプの職員も楽器を持って利用者と交流しようとする様子が見られたり、最後は1人の特養スタッフもアーティストのパフォーマンスに加わって場を盛り上げ、終始温かい雰囲気の会となった。
藤岡氏の子どもたちは高齢者にも慣れているとのことだったので、事前の打ち合わせの時点では子どもたちとアーティストらとセッションを行い、その様子を利用者にも見てもらうようなイメージでいたが、会場では母親について利用者さんの話を大人しく聞いているような場所見知り(藤岡氏談)をしている様子だったため、通常通りアーティストと利用者のセッションとなった。しかし、後半は子どもたちも場に慣れ、山賀氏と一緒に会場を縦横無尽に駆け回っていた。ベビーカーの乳児もいたが、子どもを見て喜んでいる様子の利用者もいたようだ。子どもたちという新たな要素が加わったこと、特養職員が加わり、いつもよりもコミュニケーションが各所で起こったことと合わせて、石坂氏がたとえリズムを止めたとしても他で職員とセッションしているリズムが流れているという状況・音の空間が、そうした温かい雰囲気を形成する一助となったようだ。石坂氏も、最初の頃に比べれば、実験を繰り返しながら音自体は控えめになってはいるが、実際は利用者に聞こえている(届いている)と感じている。正攻法がわからないが、全体にアプローチするよりは、個別にやって行くほうがいい感じがすると述べていた。
前回から今回まで、週3人亡くなったときなどもあり、新規入居者や、利用者の入れ替えが多かった。また、ショートステイの利用者が8人、さらに増床部からの6人程度の参加もあり、全体的に人数も多かった。増床部から参加した歩くことができる利用者は、楽器を手に取り練り歩いたり、石坂氏とセッションしたりしていた。途中で話しかけると、「(利用者の)おじいさんも喜んでくれた」と満足そうに話してくれた。一方でこれまで印象的な反応を見せていた利用者がいなくなっていたり、窓際の方で反応を示さなくなっている状態も見受けられた。
藤岡氏は、子どもにあまり関心がない人もいると思い、目が合った人に寄っていったとのことであった。その近くでずっと木琴を鳴らしていたおじいちゃんの音が忘れられず、音が利用者それぞれの心臓の音にも聞こえてきた。寝ている人もいたが、目を閉じて聞き入っている様子の人や口角が上がっている人もいたとのこと。利用者はすごく話をしたい人が多い印象で、音に負けじと喋ろうと声を張り上げていて、それが汗をかくほど力強かったとの指摘があった。木琴を叩いていた男性の利用者は、最後に楽器を回収する際「もっと(長い時間WSを)やってよ」と話してくれたため、また来ることを伝えた。その際、机の上に置いた手に触れながら話したのだが、私自身そこから少しでも謝意が伝われば良いと思った。利用者もその手について話した後、再度もっとやってほしいと伝えてきた。本WSでは聴覚(リズム)や視覚(ダンス、演奏している姿、服装)を中心に語られることが多いが、触覚についてももう少し意識を傾けても良いかもしれない。これまでも楽器の素材から昔のことを思い出したり(動物の皮が使われていることから連想して出身の沖縄のことを話したり)、山賀氏と利用者が手を合わせたりしていることもあったが、そうしたアプローチに対する反応を次回以降は詳しく見てみたいと感じた。また、子どもが初めからエンジンがかかり走り回っていたら、また違った雰囲気のWSになったと思われ、急に追い上げがくるとお年寄りもついていけず今回はその温度差はあったかもしれないが、最後に職員と盛り上がったので結果的に良かったと、石坂氏は振り返っていた。また、車椅子に座っていると、ちょうど背丈がそれくらいになる子どもの姿はお年寄りからはよく見えなかったとも思われる。
木村氏によれば、プロジェクトスタッフが帰った後に、男性職員から利用者のWS中の反応について好意的な意見が寄せられたとのことだった。特養職員も人それぞれ向き不向きや関心の度合いが異なるが、今後もプロジェクトスタッフとの意思疎通や情報共有を行いながら関係性構築を行なっていきたい。そうすることで、特養スタッフはその反応を日常のケアに活かし、我々もより利用者の反応を細かく把握することができ、新たな表現方法を探ることができるだろう。できれば、プロジェクトスタッフと一緒に各回終了後に振り返りの時間を設け、WSの出来事を言語化することができれば、活動の成果と課題の理解がこれまでよりも早く進むだろう。
(編集・投稿=小田久美子)