WS(14) 題名のないワークショップ
日時=2019年2月11日[月] 12:00~18:00
会場=南橘公民館~南橘団地
対象=桃川小学校校区にお住いの方
持ち物=なし
参加費=無料
企画=中島佑太
主催=アーツ前橋
サポートスタッフ=今井(アーツ前橋)、岡安(動画撮影)、梶原(群馬大学大学院)、狩野(同)、高橋雄作(群馬大学)、高草木音子(同)、黒野愛莉(同)
参加者数=51名(スタッフ等関係者含む)
ワークショップって何?
準備時間をひらく
今年度の南橘団地プロジェクトでは、育成会との共同企画として、夏祭りワークショップ、アーツ前橋バスツアー、クリスマス会アイシングクッキーワークショップを行ってきた。3回のワークショップは、育成会会員が対象だったため、今回の南橘公民館でのワークショップが、唯一桃川小全体に向けた機会になった。
ワークショップは13時から16時。スタッフの入り時間は毎回1時間前の12時で、準備と昼食をとりながら大学生との打ち合わせなどをしている。今回はチラシに12時に昼食を持ってきていいよ、書いたところ、3人の小5女子がお弁当を持ってきてくれた。その他、早めに待ち合わせをして来ていた4年生女子も3人ほどいた。正直もう少し来ると思っていたのはここだけの話。
到着した時、子どもたちはすでにお手伝いに来ていた大学生と話をしていた。何度か来てくれている学生に加えて、初めての学生が2人来てくれた。(この2人はのちに、子どもたちから「新人さん」と呼ばれることになる。)毎回この時間を使って、大学生にこの複雑なプロジェクトの経緯や背景を伝えているのだけど、その時間を子どもたちにも共有できる。今回はビデオカメラマンの岡安さんが確認用に動画を持ってきていて、表現の森について今井さんがしゃべっている部分を子どもたちを含めて学生に見せた。僕の考えるワークショップは、こういう時間から始まっている。ほんとはもっと前から企画や打ち合わせ、材料準備などなど、会場に来るまでにもはじまっている。その全てを開きたいというのが気持ちだけど、なかなか現実そうもいかない。それはいつかやってみたい。
テーマをなくしてみる
育成会とのワークショップを行うことができるようになった今年度は、アーティスト・イン・スクール(T2)が2年目を迎えたこともあって今までワークショップには来てもらえなかった子どもたちとも、関わりをつくることができ、ワークショップにも来てくれるようになった。ワークショップが「図工以外にもたくさんの表現がある」ことを体験する場でもあったとしても、学校で図工の様子を見ていると、「たくさんの表現の中に図工がある」とも思う。
AISでのT2を通じて、図工の技術的なことや作品の良し悪し以前に、図工がすでに嫌いになっていたり、高学年になって初めてノコギリやカッターを使う子どもが多いことに驚かされた。そこで、幼少期の造形体験や、家庭などでの多様な体験が少なかったのではないかと考え、今回のワークショップではテーマをなくしてみることにした。
テーマをなくし、ゴールがなくなることで、課題の設定はそれぞれの参加者に委ねられる。とはいえどこまでも自由というわけには行かず、材料はある程度種類や量を用意はしたけど、限定はされてしまい、ある種の制約になる。こちらとしてはそれらの材料をつかって、何か作品をつくらなくてもいいと考えている。材料をながめてあれこれ迷い、つかったことのないモノに触れ、切ってみたり貼ってみたり、無駄になってしまってもいい。アーツのスタッフや群大生とおしゃべりを楽しんだり、工作のお手伝いをしてもらったり、材料さがしに出かけるのもいい。何ができるかよりも、誰とどう過ごし、どう遊ぶかが大事だと思っている。
自由に工作することがもともと好きで、このようなワークショップにうってつけの子どもが多く来る。苦手意識を持っている子の参加はどうしたって少ない。と、あいかわらずの課題も見えてくるが、「何をしたらいいか分からない。」「テーマがあった方が楽!」という声も聞こえてくる。でもそれは最初だけで、得意な友だちに引っ張られてか、戸惑っていた子どもたちもだんだんと何かを始めていく。やることはペースに違いがあるだけで、だんだんと見つかっていくものなのだ。
これは、美術の先生を目指す大学生にも向けたメッセージでもある。子どもたちと現場での関わりがまだ少ない学生たちにとって、ルールや課題の少ない場で子どもたちがどのように遊んでいくかはある意味未知のことでもある(僕自身そうだった)。課題がないと、子どもたちが何もできないんじゃないかと思っている学生は実際に多いようで、おそらくそれは学生たち自身の経験上、課題がないことがあまりなかったのだろう(中島調べ)。
一方で、「ワークショップが本当に必要なのか疑問だったから」という理由で参加くれた大学生がいたことは、希望が持てる。
材料さがしのたび
ワークショップって、最初に挨拶をして、今日のテーマやらなんやらを導入して…みたいな流れが一般的なんだと思うのだけれども、南橘でのワークショップは、開始時間を待ちきれずに大学生を連れて団地へ材料探しに出かけていくのがなぜか定着してきている。なので開始時間には参加者がそろっていないことが多く、前述の”一般的な流れ”みたいなものはすでにできないものになっている。それでも今までのワークショップでは、テーマがあり、ある程度のゴールや流れがあった。初めてくる人たちも多いがみんなが開始時間前にそろっているわけではないので、全員で材料さがしには行けず、実は僕は行ったことがなかった(ひみつのさんぽかいぎと旅するお料理図鑑を除く)。
テーマをなくしたことで、スタートの挨拶もなければ投げかけもない。僕が会場(公民館の会議室)に常駐しなくてもよくなった。(今までもいなくてもよかったのかもしれないけれど。)そこで、子どもたちと一緒に材料さがしに出かけてみることにした。一緒に行ったのは、4年3組女子を中心とした4年生グループで、普段図工で関わっている子ども達だった。
公民館を出て道を渡った正面に南橘団地はある。路地に入ったところにすぐゴミ捨て場があり、早速そこに真っ赤なソファーが置いてあった…。ゴミなのか、誰かのものなのかはわからないが、どうか拾わないでほしい…と思ってしまうものだった。1人反応してひやっとしたが、とりあえず通りすぎた。遊びながら団地の中心へと進んでいくと、団地に住んでいる子が「ゴミがいっぱい落ちている場所を知っている。」と教えてくれたので、みんなでそちらへ行くことにした。行ってみるとそこには確かにそこそこな量のゴミが落ちている。その中から、スポンジ素材の赤いカニと、きいろい球を見つけたことから、材料さがしスイッチが入ったようで、各棟の植え込みの中にもぐりこみ、根元に落ちているものを拾いはじめた。いつの間にか燃えるゴミの袋を拾ってきて(これも落ちていたらしい)、ゴミ袋がいっぱいになるまで拾った。この袋の中身は結局工作などには使われず、結局のところ材料さがしはゴミ拾いの慈善活動となった。
プロジェクトがスタートした当初は、こんな風に団地や周辺に住んでいる子どもたちと歩き回ることは想像ができなかった。むしろ団地内を歩いていると、誰かに監視されているようで、常に『他者の視線』を感じていたことを思い出す。今はそのような気持ちがなくなり、自然と歩けているように感じるのは、子どもたちと歩いているからそう感じるのか、それともゴミ拾いをしているからなのか。いずれにせよ、リサーチ段階とは少し感じ方が変わったのかもしれない。
では結局、ワークショップとは何なのか?
ワークショップという言葉を初めてきいたのは大学の授業でのことだった。僕の子ども時代には、聞く機会もなかった。大学を卒業して、気がつけばワークショップをし続けて暮らしている。ワークショップについてのレクチャーを大学などで行うことも増えてきたが、やっぱり言葉で定義を説明するのはむずかしいし、僕がやろうとしていることが、はたして一般的に言われているワークショップなのかどうかは、議論の余地があるようにも思う。
今回の”ワークショップ”は、いつも参加してくれている子どもからの強いリクエストがあったから、急ピッチで企画が進められた。彼女は材料さがしで見つけてきたものなどを使って、序盤はキャンプ場をつくると言っていた。キャンプ場ができたかどうかは聞き忘れたが、最後はお店を開いていた。お店の真ん中にはDVDが置かれていて、そのタイトルが衝撃的だったので、最後に書いておきたい。
タイトルをいくつか紹介すると、1. LDKワークショップ特別DVD 5000円+税、2. アーツ前橋300分DVD!!! 10000円+税、3. ワークショップって何? 500円+税、4. アーシ(図しょかん)へん 前橋の「海のたび」(全て原文ママ)。アーツ前橋300分DVD!!!では、300分間僕がアーツ前橋についてしゃべっているらしい。その他にも旅というキーワードがいくつかあったのは、今までのワークショップがそのようなテーマだったからだろうし、ワークショップって何?というムック本的なタイトルも、2016年からの3年間で行ってきたことをまとめてくれているようにも感じる。
彼女は、このプロジェクトのほとんどの機会に参加してくれている。ワークショップの開催を強く願ってくれながらも、「ワークショップって何?」とタイトルをつけるのは、ワークショップはやってほしいけど、実際説明するとなるとよく分からないものだからなのではないか。それでも、LDKワークショップや海のたびなどと一緒に並ぶのは、よく分からないことも楽しみながら受け入れられる彼女の様子が読み取れるのではないだろうか。
そんな日頃の疑問や言葉にならない思いを、作品づくりを通じて遊び、表現し、思考する場がワークショップの一面であると思う。けれどもそれは10分のDVDにまとめるには、もう少し研究を重ねなければいけない。また課題は増えるのだった。
中島佑太
学生レポート
今回のワークショップはテーマの縛りがなく、逆に自由すぎて手が動くのかなって最初は思っていましたが、子供達はすぐに行動に移り、材料を予想もしない風に作品に活用していて、驚きを感じることが多かったです。また、ディスクを手にとって、そこに絵を描いていた子の「一度はこういう事やってみたかった」という言葉がとても印象的で、普段やれないような事を図工や制作の場でやってみるということは、子供にとって本当に楽しい瞬間ではないのかと感じました。今回のようにテーマの縛りがなかったからこそ分かったこととして、誰一人同じものを作っていなく、それでも個人個人が楽しそうであったのを目にし、小さいうちの図画工作の時間はやる事を縛らないことも必要なのではないかと考えさせられました。
群馬大学教育学部美術専攻1年 高草木音子
(執筆=中島佑太+スタッフ、撮影=中島佑太、編集・投稿=中島佑太)