WS(10) 旅のはじまりです。


日時=2018311[]25[] 13:30~16:00
会場=南橘公民館~南橘団地
対象=桃川小学校校区にお住いの方
持ち物=なし
参加費=無料
企画=中島佑太
主催=アーツ前橋
サポートスタッフ=今井(アーツ前橋)、成清茜加里(群馬大学)、狩野未来(同)
参加者数=42名(3/11)、46名(3/25)(スタッフ等関係者含む)

どこまでの旅なのか

相変わらず、「旅」をテーマにしたワークショップである。これらの旅のワークショップは、南橘団地での活動の中で始まり、南橘団地ではない場所でも、旅をテーマにワークショップを行う始末である。2016年の南橘団地では、『旅するお料理図鑑』『ひみつのさんぽかいぎ』『LDKツーリストで行く!南橘団地 常夏を嗅ぐ旅』『モウソウジ』などと、直接旅をテーマにしたものから、集会所と団地内を行き来することを旅と捉えたワークショップまで、様々な形で行ってきた。旅に焦点を絞っている理由は、アーツ前橋と南橘団地の間の移動について考えたからだった。「表現の森」が始まった当初は、南橘団地の人たちが美術館に行くことがある種の目的なんだと思い込んでいた。一方で、美術館ファンが南橘団地を訪れる機会をつくることで、美術館の役割を考えてもらえるよう『LDKツーリストで行く!南橘団地 常夏を嗅ぐ旅』は企画された。そのように、南橘団地(公営住宅)とアーツ前橋(美術館)の間を旅するように行き来するというイメージでLDKツーリストというタイトルをつけた。

ワークショップの現状と言えばあまり団地の方々の参加が得られず、近隣の小学校に通うことになった。学校を通してチラシを配布・紹介してもらうワークショップの第二弾が今回である。前回のワークショップ同様に、ポスティングをして集客を図っていた頃に比べると多くの参加者数を得ることができた。しかし、団地の方々の参加が増えたかというと、実際はそうではなかった。では、南橘団地の方々に参加者が増えることだけが重要なのかというと、そうでもないと思う。AISで通う桃川小学校周辺は、南橘公民館を中心に「南橘地区」と呼ばれている。60年代に国道17号線付近にバスターミナルとともに造成された南橘団地は、市中心街北部につくられたニュータウンのスタート地点である。僕が南橘中学校に通っていた頃は、1学年が8クラスあった。全国的な少子高齢化の影響で減少傾向ではあるが桃川小は現在でも400人ほどが通っている。南橘団地に住む子どもたちは、その周辺地域に住む方々との関係の中でも生活している。南橘団地との関わりは周辺を行き交う地域の方々との関わりでもあるのだ。そういう意味でも「旅」である。

アートっぽいこと、アーティストっぽさ

さて、前回の「ここは、海です。」のレポートでも、AIS@桃川小でのT2という関わり方に違和感があることは書いた。長く図工に通えば通うほど、子どもたちからは先生だというイメージが強くなるかもしれない。そこで、学校の外でワークショップをすることで、僕がアーティストっぽくいられるために重要なことなんじゃないかと考えた。だからこそ2016年の時のように、コンスタントにワークショップが行えたらいいのだけど、3月と言えば年度末。4月になったら新年度。行政主体の事業は、4月からはすぐに動けないのが関の山であるし、3年度目となる来年度は予算もどうなるかは分からない。そういう困難さも含めて、どのように南橘団地と協同していくことができるのだろうか、と焦りというか、思うように進まないモヤっとした気持ちもある。

肝心だと思っているワークショップも、開始前からやはり材料探し部隊が結成され、早々に出かけて行ってしまった。13:30の開始時間にある程度人は揃っていたけど、材料探し部隊は戻ってこない。それはそれでと先に始めることにする。相も変わらず旅をテーマに、と言いつつも、そこまで強い提案をしないのが、なんだか僕の流儀になっているのかもしれない。あたかも強いコンセプトかのように、旅を意味付けてはいるけれど、図工以外のたくさんの表現の1つとして、自由感のある時間を楽しんでもらうこともワークショップ開催の大きな意義であり、創造に没頭する時間こそが、想像力の旅であるからだ。

ところで、材料探し部隊には驚かされた。なんとタイヤを拾ってきたからだ。しかも4つも。それで車をつくるのだという。壮大だ。壮大すぎるよ。ほんとに大丈夫なのかよそれ、というか拾って大丈夫なものだとしてもだ、終了後の処分はどうするんだよ。持って帰ってくれるならいいんだけど。とつまらぬ大人の事情で頭がいっぱいになっている間に、いつの間にか子どもたちにつかまり、目隠しをされ、体に色々と巻きつけられる。いつものことだ。そうこうしているうちに時間が終わる。今回は目隠しをされていたので、周りで何が起こっているかはあまり見られなかった。記念撮影をして、片付けの時間、やはりタイヤをどうするか議題が上がる。結果、元にあった場所に戻しにいくことになった。そうして、子どもたちと保護者と一緒に団地内をタイヤを転がしながら歩き、拾った場所につくとそこは駐車場と公園だった。タイヤは車止めと遊具(?)だった。(バレなくてよかった。)帰り道、同行してくれた保護者から、来年度の育成会活動でナカジに直接ワークショップを依頼することはできるかと問い合わせをもらった。こうして、2018年は南橘町の子ども育成会と連携した活動を目指すことになった。うまく回っていくものだ、タイヤだけに。

学生レポート

テーマが「海」から「旅」に変わっていた。

子どもたちはまた「旅」から連想をし、お店や旅に必要なものを考え、つくり始めた。一緒に作品をつくった子どもは大きな画用紙を持ってきて、貼り合わせて立体的な形をつくっていた。船をつくり始めたのだ。外に出て青い画用紙を敷き、つくった船を置いてその中に入った。そこで私は、旅には色々な移動手段があることに気づいた。この子どもはぱっと思い浮かんだのが海の旅で、ほかの、靴をつくっていた子どもは、歩いて旅をすることを一番に考えたのだろう。子どもたちからどんな「旅」の発想が出てくるのか見ているのは、私が思ってもいなかったものがどんどん出てくるからとても面白い。使う材料もつくるものもその用途も自由だからこそ見ることが出来るのかもしれない。

また、今回は多くの子どもたちが南橘団地の中へ材料を探しに向かった。私も3回ほど団地の中を回りに言った。子どもが紙切れとペンを持って歩きだす姿を見て、この活動自体が旅みたいだと感じた。団地の地図をたまたま拾ったとき、思わず「宝の地図!」と言ってしまうくらい私自身も気持ちがワクワクしていた。草むらにごみが落ちているのを見て、1人の女の子が、材料を集めると同時に草むらがきれいになるねと言っていた。素敵なことをたくさん見つけ、素直に思ったことを口に出す姿は私も見習いたいところだと感じた。

今回この場では「旅」に対する子どもたちのイメージがどんどん形になっていったが、他のテーマのワークショップも見てみたいと思った。

群馬大学教育学部美術専攻1 成清茜加里


 

Iくん

Rくんから木の枝の剣をもらった。私が「ありがとう、大切にするね!」と言うと、それを聞いていたIくんが「本当にそうするの?」と聞いてきた。この問いかけから、子どもと大人の約束というものを考えさせられた。

帰宅して、今までに子どもにもらったものに目をやると、その中の一つであるハートのネックレスをくれたのがIくんだったということを思い出した。私はかかわった子どもと忘れたくない出来事が起きた時、いつ誰にもらったかを記録してその子にもらったものを飾っている。ハートのネックレスには「2016.7.30(土)南橘団地 Iくん」と書かれていた。それは南橘団地の夏祭りの時にもらったもので、「次に会った時は星のネックレスをあげるね。」と言ってくれたことや、丁寧につくっていると思ったらそれは私にくれるためだったのかと知った時とても嬉しくて飾っておいたことを思い出した。その日から一年半以上たっても大事にとっておいたことから、Iくんの「本当にそうするの?」の問いかけに自信をもって答えられると思った。その時にIくんに直接伝えられなかったのだが、時間がたって顔と名前と過去の出来事が一致せず、すぐには思い出せなかった。

Iくんが一年半前の南橘団地の夏祭りのことを覚えていたのかはわからない。

Yちゃん、Kちゃん、Aくん

この三人については、どこまで許すか、ということで自分の中で葛藤とともに遊んだ。

Yちゃんには私のカメラを渡した。Yちゃんはなかなか素敵な写真を撮っていたので私や岡安さんでその写真に感動する反応をした。そこからYちゃんの中でスイッチが入った(入ってしまった)のが分かった。私が返してほしいといっても返してくれなくなり、それまでは慎重に扱ってくれていたのだが注意力がなくなったのも感じた。ちょうどYちゃんのお母さんがその姿を見て「壊したらいやだから返しなさい!」とYちゃんに強く言ったのでカメラは返ってきた。子どもの目線からの世界の写真や、子どもがレンズを向けた時の被写体の人間の笑顔はとても新鮮だし、カメラの世界の出会いとしても素敵である。けれど、もう少しYちゃんと私の合意ができた中でカメラのやり取りができたらよかった。

KちゃんとAくんについては、長い棒をもって戦っていた。武士の世界への旅であり、実際の武士の世界ではあり得ることだから止めたくはないが、現実世界では本人がけがをしたり、周りのけがにつながると思ったら止めねばと思い葛藤した。

群馬大学教育学部美術専攻4 狩野未来


(執筆=中島佑太+スタッフ、撮影=木暮伸也、編集・投稿=中島佑太)

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