WS(3) ひみつのさんぽかいぎ
2016年6月25日(土)第三回ワークショップ
場所:南橘団地第2集会室
時間:13:00~15:00
スタッフ:中島佑太、茂木克浩(群馬大学大学院学生)、今井朋+小田久美子(アーツ前橋学芸員)
合計:7名(大人1名、子ども6名)(全員南橘団地居住者)
ワークショップの流れ
12:30 受付開始
13:00~13:15 あいさつ、イントロダクション
13:15~13:30 用意した素材で靴をつくることになり… 紙袋の靴を制作
13:30~13:45 靴を履いて外に出て歩いてみる。
13:45~14:00 集会室に戻り、靴を改良する。
14:00~14:40 集会室と広場を出入りしているうちに、他の子どもも合流し、靴作りに発展する。
14:40~15:00 出来上がった靴を履いて散歩に出かける。
15:00 終了
アーティストの言葉
3回目のワークショップとなる今回は、アーツ前橋での展覧会に向けたコンセプトが《LDKツーリスト》に決まってから初めてのワークショップとなった。Living・Dining・Kichenの頭文字であるLDKは、居室空間をイメージすることばのひとつ。南橘団地で行っていくワークショップの目標は、団地住民の自宅、つまりリビングやダイニングルームでワークショップをすることを通して、住民のみなさんとのコミュニケーションを図ることなのではないか。
また、公立美術館のアウトリーチ活動について、担当学芸員の今井さん、小田さんたちと議論する中で感じた仮目標が、”無料のワークショップに来ない層の人たちを、美術館に呼び込むこと”だった。なかなか美術館に来ない人たちの住居から、美術館(アーツ前橋)への移動を生み出したい。そのために、(僕は美術館の人間ではないですが)僕らが美術館を出て、彼ら(美術館に来ない人)の家の近くまで出向き、美術鑑賞や美術館に来ることに相当するだろうことを、提供していこう、という狙いもある。
また同時に、夏の企画展に来た一般の来場者(美術館に来る人)が美術館の展示内でプロジェクトの概要を知るだけではなく、実際に現場に足を運んでもらうことができないかと考えた。そうすることで、アーティストの僕やサポートスタッフが現場をフィールドワークする中で感じ、考えたこと、また空気の一端を来場者にも感じてもらい、僕らの提起した問題について直接的に考えてもらうことが狙いと考えている。そこで、「人の移動」をテーマに考え、旅行代理店をモチーフにすることになった。旅行とは言っても、目指す場所がリビングやダイニング&キッチンというわけだ。
しかし、なかなかプラベート空間に出入りできるわけでもない上に、団地というパブリックな空間でのワークショップも簡単ではない状況。公営の住宅なので、外部に開かれているわけではないし、町内役員さんたちのような世代の方になかなか理解していただくことも特に難しい。まあこれは、繰り返し繰り返しお話をして、実績を丁寧に積み上げていくしかないのだけど、その回数が積み上げられるまで、続けられるかどうかさえ分からないのが現状といったところだ。
1回目は集会室、2回目は公園(屋外)、そして3回目は再び集会所を会場にしてみたが、《ひみつのさんぽかいぎ》というタイトルにある通り、集会所を出て団地内を散歩するテーマである。あらかじめ想定していたワークショップの内容は、団地に住む子どもたちの秘密のことや、秘密をテーマにした世界観を紙袋の中に表現して、その秘密を誰にも見られないようにするための鍵をつくって持って帰る、というものだった。しかし、ここ数年の自身の活動を振り返ると、自分が設定した内容をそっくりそのまま参加者と実現・具体化していくようなプログラムを実施することに、アーティストとしてジレンマを抱いていた。内容はある程度考え、準備をしてはいくのだけど、気分が乗らない。乗り気ではなく考えたことでもあるから、その通りになったらつまらないとさえ思ってしまう。
今回のワークショップは特に気分が乗っていないので、参加者がいっぱい来たら嫌だなあと正直思っていた。(ワークショップの前はいつも、お腹が痛い。)しかしラッキーなことに、開始時間になった時に来た参加者は1人だけ!いつも来てくれるHちゃんです。普段だったら、主催者の広報力の無さを責めたくなるところでしたが、今回は素直に嬉しかった。気持ち程度に、他の参加者が来るのを待つ時間を設けたが、早いところ1人のうちに始めてしまおう、と思った。しかし、たった1人の参加者Hちゃんは、いつのまにかスタッフのカメラを首から下げ、すでに写真を撮ることに夢中になっていた。呼びかけてみても、返ってくるのは返事ではなくシャッター音。なんというやりにくさ!と言わんばかりの空気かもしれないが、なんとかコミュニケーションをとっていく。こういう困惑した状況の上に生まれることこそ、アイデアではないか。彼女が持つカメラの被写体になりながら、「じゃあ外に写真を撮りに行こう!」と今回のテーマである散歩に結びつけ、散歩しながら撮影し、なにか見つけられればいいと考えた。その前に、帰ってきてからどんなことができるのか想像しやすいように、一応持ってきた材料を見せてみた。すると、Hちゃんが「外に履いていく靴をつくろう!」と言い出しました。早速スタッフを含めたみんなで用意されていた紙袋を足にかぶせ、足首辺りで縛って足袋を制作した。
団地の特性の1つは、外に出ると遊んでいる誰かに出くわすこと。会場の集会室から、自作した靴を履いて隣接する広場に出ると、外で普段通りに遊んでいる子どもたちに出会い、つくった靴について話をしたり、ワークショップに誘ったりすることがある。ワークショップに興味を持って来てくれることもあり、ポスティングよりも集客力を感じる。今回は外で出会ったHちゃんの友達が合流し、試行錯誤しながら靴をつくり、出来上がった靴を履いて散歩に出かけた。参加者たち(特にHちゃん)にとって、靴をつくるのは散歩に出かけるため、という動機があった。お互いのコミュニケーションの中に、自分が乗れる部分を見出し、相手が乗ってくれる部分をつくり出す。その乗せ上手・乗せられ上手の関係の中にこそ、合意形成は生まれる。その遊びこそがワークショップだと考えている。
(執筆=中島佑太、撮影=スタッフ、編集・投稿=中島佑太)