音の玉手箱(2018年度) 第2回8月6日
「音の玉手箱」の活動報告です。
日時:平成30年8月6日(月) 15:00〜15:35
参加者:63人(利用者 54 人+職員 9人)+スタッフ等関係者 8 人
▼報告書
画像クリックで拡大します。木村祐子(コーディネーター)作成。
*特別養護老人ホームえいめいの利用者さんのご家族へ配布したものです。
小田久美子(コーディネーター)による報告
今回のワークショップ(以下、WS)があることが現場へ通達漏れしていたようで、開始時間に部屋に行った際は歌詞集を元に歌うレクリエーションを行おうとしていたため、特養のスタッフにすぐにこちらのWSに譲っていただが、いつもと雰囲気が違い場が温まるまで時間がかかったようだった。
事前に実施した特養スタッフ向けのアンケートの回答へ、大きな音に対して頭痛がする人もいるといった意見が寄せられたこと、前回のWSで石坂氏が使用してお年寄りに合っていると感じた打面の形が歪な古いジンベでリズムをとりながら最初から個人にアプローチして行く形となった。楽器を通して利用者とコンタクトを取っていた山賀氏も、あまり大きな音を出さないよう配慮したとのことであった。前回のWS終了後にも、アーティストからテーブル越しやテーブルに座っている横から接するのではなく、個人個人と正面から向き合うことをもう少し大切に行いたいという意見が出た。今回は全体的な音の大きさに配慮はしたが、そうすることで結果的に対個人とのセッションが主となっていた。
このプロジェクトでは、同じ時間や空間に、活動に関心のある人とない人の両方が混在している。つまり、通常美術館や学校で行なっているようなWSへの参加の同意や意思のある人、あるいは授業などそのWSに参加する前提になっている人ばかりが集まっているわけではない。(もちろんそうした場であっても参加者の選択の自由は担保されるべきであるが)デイサービスで2016年度にWSを実施したが、現在の介護保険の制度の中では、同じ時間同じ場所で同じサービスを受けるということが基本となるため、やりたい人とやりたくない人を分けることは困難であった。そのため、特養に活動の場を移し、そうした点を解消しようとしている。特養の場合は、もし活動に参加しない場合は自身の居室へ移動することが可能だからである。しかし、各回60人ほどいる特養の利用者は介護度が高く、参加の意思を確認することが難しい人が大半である。場所も、現在使用しているホール以外を確保することができない。これまでのWSでは、普段座っている配置のまま当日の利用者の様子を見ながら音を鳴らしたり、嫌そうにしている人や寝ている人にはあまり近づかないようにはしてきている。しかし、反応がある人のすぐ隣に嫌そうな人がいたり、WSが始まり音が入ってきてから15分ほどした後に鋭い反応を見せる利用者もいたりするため、あらかじめ分けることも難しい。よって、今後はアンケートで活動に関心があると答えた特養スタッフの協力も得ながら、大きな音を避けた方が良い人を確実に把握し、対応して行くことにした。
特養スタッフのWS中の関わりについては、以前スタッフ全体へレクチャーを行い、ある程度は伝えてはいるが時間が経っておりスタッフも入れ替えがあったことから、今後は関心のあるスタッフがWSに参加できるようにし、スタッフサイドの蓄積や連携を図って行くことを目指していく。これまでもレクに慣れているスタッフは自然とWSに入ってきていたが、我々への遠慮もあってかどう入っていいかわからず見守っているスタッフもいる。まずはWS直前に短い打ち合わせを実施する予定である。必ずしも楽器を正しく持たせるようにしたり、参加を強要したりしなくても良いこと、スタッフも楽器を持って利用者と交流に取り組んでみること、利用者によっては音についての感想を言ったり話をすることが嬉しい利用者もいるため、基本的には「利用者と個人として向き合う時間」をもつことに注力する。今回初めてえいめいの現場を訪れた群大院生で様々なWSの現場をコーディネートしてきた竹丸氏の指摘にもあった通り、特養スタッフへも身振りも交えて関わり方を示したり、アーティスト側のスタッフも現場に完全に飛び込んで場の底上げを行う方法も有効だろう。これは、以前特養スタッフにとったインタビューで、ケアであってもその利用者個人に接する時間は、1日1〜2分もないかもしれないという話があったこととへも対応している。
石坂氏によれば、これまで楽器はあまり触っていなかった利用者が机を叩いてリズムを取っており、その方とセッションを行うために石坂氏自ら自分の楽器を置くこともあり、音楽家にとって楽器を置くことは怖いことでもあるとのことだったが、これも個人とのセッション/コミュニケーションに注力した結果起こる出来事である。演奏する手に触れられたり、WSの終了時間を察知してか「おしまい」と利用者に諭されるように言われたりするなど「試されている」、「仙人に教えを乞う」ような感じとも発言していた。WS全体の空気はアーティストのリズムや動きによって形作られてはいるが、「全体の盛り上がりと、個人の盛り上がりも一致しない」との石坂氏の談もあり、場の流れは完全にアーティストが主導しているわけではない。
これまでもWS終了後にプロジェクトスタッフで意見交換をし、毎回マイナーチェンジしながら行ってきたプロジェクトであるが、特養スタッフのアンケートをとったことで、新たなフェーズへ移行しようとしている。「違和感しかないプロジェクト。その違和感をやり通す」と石坂氏が言うように、違和感や疑問を恐れることなく抱えながら思考し、また周囲と共有しながら進めていくことで、時間はかかるがより良いWSやケアが模索され、実現できるのではないかと感じた。
(編集・投稿=小田久美子)