R2年度オンライン鑑賞会@デイサービスセンターえいめい
社会福祉法人清水の会 えいめい 木村祐子
福祉施設にとっては、アーツ前橋はちょっと変わった提案をいつもしてくれる。コロナの感染拡大前は、デイサービスや特別養護老人ホームで、神楽太鼓の奏者(石坂 亥士 氏)とダンサー(山賀 ざくろ 氏)によるワークショップを一緒に行った。そして、今回の提案はデイサービスえいめい(以下、デイえいめい)に通う高齢者の方とオンラインで絵画鑑賞だ。
デイえいめいに通う利用者さんは80代から90代の方が中心で、職員は利用者を送迎車でお迎えにあがる。利用者さんは杖で歩く方、職員が両手を支えて歩く方、車椅子で通う方など様々である。そして、朝の出来事を午後は覚えていない方や職員よりも記憶がしっかりしている方など、認知機能も様々である。さて、オンライン上の鑑賞ができるだろうか。誰が参加するだろうか。デイえいめいに通う利用者さんを頭に巡らす。
デイえいめいの利用者とオンライン越しにおしゃべりをするのは、アーツ前橋で何年も研修や実践を重ねているナビゲーターである。ただ、ナビゲーターも、対象者が高齢者であること、さらにオンライン上のおしゃべり鑑賞は初の試みであり、どうなるか全く予想ができないものであった。そのため、ナビゲーターの方々はオンラインでナビゲーター役と高齢者役で練習をしたり、デイえいめいの職員へオンライン鑑賞がどのようなものか実施したりして本番に臨んだ。
今回は、おしゃべりを楽しむ鑑賞会なので、絵に興味を示しそうな方、おしゃべりをよくされている方を中心に1日目に5人、2日目に6人をこちらで選んだ。絵画作品はナビゲーター、アーツ前橋学芸員とで選んでいただき、福田貂太郎の《噴水》であった。この絵画の複製パネルを用意し、デイえいめいの廊下に3週間前から掲示していた。
オンライン鑑賞会スタート。
モニター越しにナビゲーター2名と利用者が自己紹介をし、鑑賞会の趣旨を伝えられる。その後、高齢者の手には、それぞれ約A3サイズの複製パネルが渡され、手元で見てもらえるようにした。また、モニターにも同じ絵画を映し出していた。
3月5日(金) 参加者5名、ナビゲーター2名
この日の参加者は、現在も絵を描かれている方や以前描いていた方もいらっしゃり、絵を観ることが好きな方であった。皆、モニター越しに人とおしゃべりをすることが初めてで、不慣れながらも楽しそうにされている。相手、ナビゲーターがどのような人か興味を持ちつつ、なんでも喋ってくれる。
用意された絵画が前橋駅だという話になり、教員をされていた方は生徒を連れて行って写生大会をした話や補導をした話などされる。また、「デートの待ち合わせだった。」などと、思い出に花が咲いていた。中には中心に描かれている男女の様子を見て、「ま〜、こうやって手を繋いでるのかしら。」と隣の席の方同士で手を繋いで笑っていた。
中央に描かれた噴水の水の流れる向きや季節感などのことも楽しそうにおしゃべりが弾む。ただ、1名の方は田舎の方の出だからと話すことをやめてしまった方もいらした。
3月6日(土)参加者6名、ナビゲーター2名
この日の参加者は、自ら発言をする人が少なく、質問されれば答えることが多かった。事前に鑑賞会をすることを伝えていなかったたこともあり、きょとんとした状態でスタートとなった。
鑑賞に入ると「暗い感じがする。」「秋に見える。」などのような絵画のイメージを繰り返して喋る方。「噴水のところが大きな人が立っているみたいに見える。」という方もいれば、絵のごく一部分を指差して「犬がいる。その横にも犬がいる。その横に猫がいる。」とかなり頑張ってみないと、私にはそのようには見えないところを指差している方がいた。
この犬と猫の説は参加者も見えるという人3名、見えないという人3名と賛否が分かれていた。
オンラインという環境を通して
率直に非常に、難しかった。理由は簡単なこと、喋っている相手の表情が読めない、声が聞こえているか分かりにくいからである。ナビゲーターにはデイえいめいの利用者が映し出されているが、利用者はマスクをしている。デイえいめいの画面には絵画が映し出され、ナビゲーターの顔が見えない。声の聞き取りに関しては、高齢者の方がそれぞれ同時に話をする場面もあり、ナビゲーターがどの話を拾うのか、どの声が一番聞こえているのか全くわからない。1対1の電話とも違い、複数人と初めて会う人同士の表情が見えない、どれだけの声が聞こえているかわからないことが、これほどコミュニケーションを取るのが難しいとは思わなかった。また、参加者は自分の持つパネルを指差して、「これが〇〇。」などと話をする。どこを指差しているかナビゲーターに伝えることは、画面越しの解説に慣れていないと、難しい。
オンライン鑑賞1日目、2日目は参加者の性格の違いや絵画の着眼点の違いで全く異なった味わいだった。ナビゲーターも大変だったかもしれない。
ただ、オンライン鑑賞は前述したように難しかったが、やる意味は大変大きいものだと思う。デイサービスに通う方は80−90代、その子どもたちは60−70代。実際問題60−70代の子ども家族が、身体機能や認知機能が低下した高齢者と美術館に一緒に行くことは、やはり大変である。出かけると言えば医者や買い物が中心になる。まして、このコロナ渦中は元気な高齢者もなかなか外出ができない。入所施設で生活する方の中には、1年以上買い物にも行くことが許されないこともある。
それが、原画ではないが普段目にすることはない絵画を観て、知らない人とおしゃべりをする。こんな機会は、滅多にありえない。今回はおしゃべりが成立することを念頭に参加者をこちらで選んだが、いろんな利用者にも絵画を見てもらい、どのような反応を示すかも気になるところである。絵画や美術がもともと好きだった方やなんとなく観てみたい方、日中をほとんどベッドで横になっている方、認知症が進み会話が中々成り立たない方など様々である。いつかは対面でできると良いと希望を持ちつつ、現在はオンライン+絵画鑑賞+高齢者がとてもアートらしい新たな取り組みに感じる。少しずつ活動を展開させてゆきたい。