ゆったりアーツ1/加藤アキラ 孤高のブリコルール


昨年から、「引きこもり・不登校」の問題に関わり始め、引きこもり当事者の人たちと会っている。しかし僕はカウンセラーでもないので、過去の経験や引きこもりになった話題に触れることはあまりない。話といっても、趣味や身の回りで起こったことなどが会話の中心で、タイミングが合ったら家庭や学校の話題にも触れてみるが、話が広がらなければまた違う話題に戻る。彼らが内に秘めている学校、家庭、進学、就職など、問題の核心について話すことは躊躇してしまい、表層部分の他愛もない会話をしている。それは惑星を周回する衛星の感じにも似ていて、距離の縮まらない横移動をぐるぐるとしているかのようだ。掴み所のない浮遊感に不毛さを感じたりもするが、周回移動中に引力が強まり、突如核心が近づいてくることがあったりする。昨年も突然の引力により大気圏に突入したこともあったし、それはこちらが強引に起こすのではなく、その引力が起こるのを待っている感じでいいのだと思っている。アリスの広場自体もそんな場所で、「何もしなくていい、ただ来てくれたらそれだけですごいこと、だからゆっくりお茶を飲んで帰ってくれたらいい」と施設長の佐藤さんは言う。

前回試みたアリス美術部が2回目の開催となり、今回は新しいメンバーも2人参加することになっていた。ところが前日になって活動スペースが使えないことがわかり、考えた挙句に、ちょうど休館日だったアーツ前橋に出かけてみることにした。これは怪我の功名で、貸切の美術館体験は彼らにとって居心地の良い場所となったようである。

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メイン展示は『加藤アキラ』という一風変わった高齢作家の個展だ。美術の潮流から外れ、職業の傍で自身の造作を続けて来た骨太な作家の展示である。現代美術の展示は初めてという彼らにはどうだろうかとの心配もあったのだが、そんな不安をよそに、反応は嬉しいものだった。

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展示を見終わった頃、スペースが使える時間になったのでアリスに戻ろうとすると、展示の中で見た表現を試してみたいという話になり、100円ショップで画材を買い込んでから帰路につく。アリスではボランティアさんがお茶を用意して待っていてくれ、みんなでほっと息をつく。ちょっとだけ絵を描くことにして、今日の目的であった「話しながら描く」を実践した。

そういえば、前回部屋の隅っこで描いていたKさんが同じテーブルで描いていたことを、後になってから気がついた。

(執筆・投稿 滝沢達史)

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