「第4回まちほけチャンネル」開催報告!
当日の配信の様子。感染対策のため、同じビル内で3か所に分かれて配信しました。
不登校やひきこもりを支援するフリースペース「アリスの広場」代表・佐藤真人、LGBTの支援団体「ハレルワ」代表・間々田久渚、そして、アーティスト・滝沢達史の3名がホストになり、その時々の気になるテーマでお送りしているオンラインプログラム「まちほけチャンネル」。
4回目となる今回は、アーツ前橋で表現の森とアーティスト・イン・スクールの活動をしているアーティストの中島佑太さんと、群馬大学共同教育学部准教授の郡司明子先生、アーツ前橋の住友文彦館長をゲストにお招きし、「学校の変なルールを面白いものに」をテーマに話し合いました。
ゲストブースの様子。左から郡司明子さん、中島佑太さん、住友文彦さん(まちのほけんしつ 2F)
番組の冒頭、中島さんはご自身の活動として前橋市のアーティスト・イン・スクールを紹介する際に、「図工/アートは本当に作品を作らなきゃいけないの?」と問いを立てます。
郡司先生の大学のチームと相談をしながら、小学校の図工の時間を使って子供たちとの関りを作っていった今年度。図工のキット教材を使用しつつ、教材の指示通りに作らずに、いろいろなアーティストたちに関わってもらい彼らが様々に教材を扱う様子を身近で感じたり、子供が素材と対話できる時間を作ったりすることを通して、自分なりにキット教材と向き合う機会を作りました。その中で、4時限あった授業中3時限目まで教材に手を触れなかった子供が、作品を作らないと「成績がつかないから」と最後の時間に作り始めようとしたといいます。その姿を見て、ただ「作品を作ったら(それで成績がつくから)良かったのか、僕の中でもやもやした」と中島さんは言います。
郡司先生からは、キット教材は作り方が決まっていて、必要な材料が全部入っているため「その中でやれば授業は成立する。だけど学びは成り立つだろうか」と子供たちの学びの側面からも指摘しました。「今回私たちが目指したのは、とことん自分なりの用途にこだわってほしい、ということ。自分はこの素材を前にどうしたいのか、というところを考えてほしかった。」と言います。そして中島さんが入った図工の授業は子供たちに「ゆらぎ」が生まれた時間だったともいいます。「子供たちのゆらぎの時間、今を切実に変容しようとしているところを寛容にうけとめられる目線も必要だと思う。」と振り返りました。
ホストブースの様子:左から佐藤真人さん、間々田久渚さん、滝沢達史さん。(まちのほけんしつ1F)
滝沢さんは自身が学校教員だったころを振り返り、教師の仕事量の多さや、「評価をする」側の利便性から、成果がはっきりするキット教材が選ばれがちであるという様々な要因を指摘。
それを受け、視聴者からは「結果としての作品が存在していると教師は個別に成績をつけられます。30人の経過を一人の教師が本当に見とることができれば理想的ですが、現実的ではないですね。。」や、「ぼくも図工が苦手で、学校でいやな時間でした。上手なものができるのかどうかではなくて、そこに至る作る過程、そこが評価されたらいいのにな」というコメントも。
住友館長からは、オーストラリアの学校で英語がわからないのにフランス革命の本を読んでレポートを書かなくてはいけない課題が出されたとき、「全然読めないしと思って、教科書にあった絵を模写して出したら、クラスで3番目の評価をくれました。そうしたら『歴史、大好き』ってなって、超勉強するようになった。そういうものですよね。そのあと、その子がちゃんとやれるようになるっていう。そこで評価するのではなくて、その後のことを評価に使えばいいんじゃないかな」とご自身の経験を振り返りました。
それを受けて郡司先生からは「そんなに評価に縛られなくてもいい、ということを感じました。その場でのその子たちの様子をよく見て受けとめるというのは大事だけれど、トータルとして学習の中でどれだけ子供たちの力が伸びたかな、変容したかなってところをとらえて返していければいいわけですよね」とのこと。授業の設計についての可能性をお話しいただきました。
司会ブース:左からまちほけのキャラクターくまちゃん、天羽絵莉子。(まちのほけんしつ 2F/和室)
後半は実際に社会生活に生きづらさをもつ人たちと共に活動している佐藤さんや間々田さんも話に入り、学校生活での悩みや感じることを共有しながら、どんな仕組みがあると良いか話し合いました。
間々田さんからは体育が苦手だったという視聴者からのコメントを受け「自分も体育が苦手だった。速く走ることが良いとされていたり、ボールの飛距離が長いとか。自分は美術は好きだったけど体育は苦手で、コメントいただいた方も大人になって体を動かすことが好きだと気付いたとありますが、自分も運動は好きだったけど体育という教科は嫌いだったというのがあった。図工美術だったら出来栄えだったり、体育だったら記録だったりというところが直接評価になっているから、苦手というのが出ちゃうのかなと思いました」と、自身の経験を話し、それに対して郡司先生からは「体育は自分自身や他者の体に向き合うとか、自他の体に触れるとか、もっともっと体ってどういうことなんだろう、っていうことに真剣に向き合える唯一の時間。図工美術も自分に向き合うという言う点ではすごく似ていると思う。そういう時間を大事にできる学校だといいですよね。その観点では、ハレルワさんがやっていることともつながるんじゃないかと思いました」とコメントをいただきました。
佐藤さんからは「アリスの若者から、小学校とか、中学校とか、どの学校に通うか、もっと自由に選べるといいのに、という言葉がでたんですね。それすごい面白いなとおもった。一時期学区外で通えるみたいなものがあったけど、基本的には学区の中、自分の地域になる学校に通うことが多い。学校でも雰囲気が違ったりするので、ちょっと遠くても子供自身がこの学校なら通えるかも、通ってみたいかもと、選べる選択肢があると良いのかもな、と思った。」と、現場の声を届けてくれました。
特別学級のシステムについて、住友館長から質問が出た際、子供たちの学びのペースに丁寧に合わせるという目標もありつつ、滝沢さんからは「クラスは分けないで混ぜたほうが良いと思いますが、先生側のスキルがないとトラブルが生まれた時に受け止められない。一番の学びはトラブルが起こった時の越え方にありますが、失敗が起こらないようにするのが学校だったり社会なので、多様性は排除されてしまう。社会が成長と成功を求めすぎているところが問題なんじゃないのかな。失敗とエラーをどう越えるかっていうところに発想や成長があるのに、失敗を目標にして欲しいな」という意見が出ました。
また、中島さんからは年齢によって学年が決まるシステムに対して、「12歳は6年生というとらえ方も生きにくさを生んでいると思います。年齢、学年、クラスが生まれた年で配属されてしまうことがハンディをあたえられるきっかけになっていると思う。ここはお茶を飲んでてもいい部屋、ここはキット教材をやる部屋です、ここは6年生が算数を学ぶ部屋です。少人数にクラスをするっていうのもいいかもしれないけど、ちょっとグレーな時間というか、選択の授業をもっと幅の広い選択肢で「ひらがなが自信ないから今日は1年生の授業を受けたい」というようなもの。自分で選択できることで自己肯定感も生まれる。」という意見も出ました。
最後に、アーツ前橋では美術館の中だけではおさまらない活動を行っていますが、学校や教育を考えるうえでも参考になるのではないかと、館長である住友さんから美術館の外に出る活動について伺いました。
「美術館の外にいろんな人たちがいるから、外に出ていって美術の概念を外に広げようと考えているのではく、今日も話に出た失敗やエラーなど、そもそも美術を考えるうえで必要な経験が美術館の中では起こりづらい。美術館の外など、そうじゃない環境の中で美術って何だろうと考えることが僕らも専門家として必要なことでもあるので、社会と係わることが良いことだからというのではなくて、本当に美術って何だろうっていうことを考えるうえですごく貴重な活動になっています。美術館に来てもらうことを、美術館の外に出ていくことに変えようとしているのは、きれいごとの活動というより、そういう経験を実際に美術が必要としていると思っています。」
いつもより枠を拡大して2時間でお送りしたスペシャル特番だった今回。
チャットには多くの視聴者にご参加していただき、コメントとスタジオとのやり取りも大いに盛り上がりをみせる中、無事終了いたしました。
ご視聴いただいた皆様、コメントをいただいた皆様、誠にありがとうございました。次回をお楽しみに!
(写真:堀口実香 文:天羽絵莉子)