特別館長挨拶
私はアーツ前橋の特別館長の職をお受けするにあたって、その使命を以下のように考えました。
私の経験・知見に基づいて、アーツ前橋の制度や組織を包括的に見直し、必要であれば改善・改革し、その活動を再編成して、未来に向けて再出発させます。そのことによって、前橋市民の方々、また市外から来訪する多くの観客の方々に、今日の新しい美術の可能性を紹介し、市の美術・文化の創造的発展に寄与していきます。
これまで問題があった作品管理や契約処置などは、基本に立ち返り、再発防止の措置を講じます。美術館の中心的な活動である展覧会は、多様な観客にも感動をもたらす魅力的なものにしていきたいと思います。
アーツ前橋は今年の10月に10周年を迎えます。そこで10月には10周年記念展覧会「New Horizon」展を開催し、アーツ前橋の再出発を祝いたいと思います。この展覧会は、美術館内のみならず街の中にも作品を設置し、美術館と街が一体となった画期的な企画にしたいと思います。この展覧会によって、「アートは人々の生活と共にある」、ということを目に見える形で実現したいと思います。
再出発にあたって、以下のミッションとヴィジョンを掲げたいと思います。
ミッション
1.国際的で最先端のアート(テクノロジーを用いたアートやアジアの現代美術など)を逐次紹介し、現代のアートの持つ新鮮な感動を人々に伝え、前橋市に創造的な精神の基盤を作ります。
2.アーツ前橋は地域のアーティストや街の人々と協働し、より多くの人々が生活の中で美術を楽しみ、子供たちも多くの学びの機会が得られる基盤としたいと思います。
3.アーツ前橋のコレクションは、貴重な文化資源ととらえ、将来に向けて適正に保存するとともに、できるだけ独自で創造的に活用していくことを使命とします。
ヴィジョン
① アートと一体化した街を作り出し、魅力的な展覧会と各種プログラムによって、交流人口、定住人口を増やし、経済的にも前橋市の発展に寄与します。
② 子供たちや市民には美術館が提供する多様なラーニングプログラムを提供し、創造的な人材の育成を図り、希望に満ちた未来を確信できる社会を構築します。
③ 美術館の活動を通して、地域から国外まで幅広いネットワークを構築し、前橋市が芸術・文化のハブとしても力強く存在する街としていきます。
2023年6月
アーツ前橋特別館長
南條 史生
館長挨拶
私は美術館のあり方として次のようなことを夢想しています。
子供から大人まで、誰もが気楽に足を運べる場であり、
そこでは、視覚やいろいろな感覚にとって大なる喜びがあり、
創造的なことを楽しみ、その魅力を存分に味わい、
展示されているものを見ると、自然と「見る力」がつき、その「見る力」によってさらに見ようという意欲が増し、それがまた「見る力」を高めるという、渦を描きながら上昇していく運動が来館者ひとりひとりの中に生じ、
アジール、つまり、日本語では無縁所や自由領域と訳されるところに居るかのように、自分の社会的な立場や地位をいったん括弧に入れ、なにものにも縛られることなく、森羅万象について深く掘り下げて考えることができ、
自分の世界に磨きをかけたり、それを高めたりするのはもちろんのこと、自分にとって異質なものであっても、自分の中に取り込めるように促してくれて、それらによって自分の世界が広がり、
結果、日々の生活の中で、最も広い意味で創造的なことを行おうという気持ちになる、
そのような場です。
そして、このような美術館像は、おそらく、当館の特別館長をはじめ、多くの美術館関係者が望んでいることであろうと信じています。
ただ、このような夢想と、私ができることのあいだには大きなギャップがあります。私は私ができるささやかなことを行うだけです。それは、大まかには、作家や関係者と協議し、協力を仰ぎ、活動の中身をよくすることでしょう。でも、ここではとくに次の2点を強調したいと思います。
ひとつは、自分をひとりの観客の身に置いて、この美術館とその活動を観察し、そこに、来館された方々のご意見も参考にして、その観点から美術館がなすべきことを考えること。
もうひとつは、美術館の優秀なスタッフがその能力を最大限に発揮できるように環境を整えること。そして、なににもまして望むのは、上で夢想したような美術館の楽しみと魅力を、スタッフ自身が仕事を通して味わい、それらを伝えることに自ずと喜びを覚えるようになってもらうことです。
最後に、私自身の態度についてですが、美術館を運営するのが容易でないこの時代にあっても、美術館の可能性を信じ続けようと思います。
みなさんが様々な美術に興味を持ち、美術館に足を運ばれることを心より願っています。
2023年8月
アーツ前橋館長
出原 均