アーツ前橋

展覧会

MUJI for Public Space in Maebashi「うすい店」展

2025.01.25 - 2025.03.23

「MUJI for Public Space」とは、無印良品とDDAA LABが、〈公共を享受する視座〉をテーマに取り組むデザインリサーチ・プロジェクトで、2022年に東京・銀座の公共空間を舞台にしたアイデアをまとめた「MUJI for Public Space展 ―街をもっと楽しむための100のアイデア―」がATELIER MUJI GINZAで開催されました。
 アーツ前橋は前橋市中心市街地のにぎわい創出を目指して、2023年から「無印良品」を運営する株式会社良品計画との協働を開始し、同年11月にDDAA LABを率いる建築家・元木大輔によるデザインリサーチのワークショップ「MUJI for Public Space in Maebashi」を県内の若手デザイナーや学生を対象に実施しました。本展は、昨年のワークショップと今年11月に前橋中央通り商店街で行われた「うすい店」の試験設置(11/19〜24)を経て、これからの前橋のまちづくりに極薄建築「うすい店」を提案する展覧会です。
 DDAA LABは、建築的な思考を軸に、リサーチやプロトタイピングを通して実験的なデザインを行うプラットフォームで、彼らのテーマのひとつに既存の素材を最大限に活用し、最小限の手付きで機能やシステムを拡張したり、違う意味につくり変えたりする“ハック”という手法があります。「うすい店」はシャッター街や工事中の仮囲いなどに着目し、完成というピークにのみ焦点を当てられがちな建築プロセスをハックし、街を面白くするアクティビティを生み出す〈ハッカビリティ= 改変可能性〉を提示します。
 今後、大規模な再開発工事がはじまる予定の前橋市中心市街地。本展は低予算かつ短期間で実装できる戦術的まちづくり(=タクティカル・アーバニズム)のひとつとして「うすい店」の社会実験をおこない、このトライアルを通して、市民が主体となり自らの場所を生まれ変わらせるには何が有効で何が課題なのかを、地域の人々とともに考えていきます。

 
「MUJI for Public Space展 ―街をもっと楽しむための100のアイデア―」(2022~2023年/ATELIER MUJI GINZA)
 
左:「無印良品 前橋中央通り商店街」による「うすい店」の実験(企画協力:DDAA LAB) 
右:「アーツ前橋 株式会社良品計画 1Dayワークショップ《MUJI for Public Space in Maebashi》」


株式会社良品計画と前橋のまちづくり
無印良品を運営する株式会社良品計画は、第二創業のテーマの一つとして〈地域への土着化〉を掲げ、日常生活のインフラを担うべく地方への店舗出店を拡大するとともに、それぞれの地域が抱える社会課題の解決にも取り組んでいます。ここ前橋では、2023年1月に前橋市中心市街地のまちなかの魅力向上と賑わいの創出を目指した「まちなかの活性化に関する連携協定」を前橋市と締結。再開発が今後進む全長約330メートルの全蓋式アーケード商店街に、「無印良品 前橋中央通り商店街」を2023年2月にオープンしました。毎日の生活に欠かせない日用品などの商品販売を行い、生活に「役に立つ」店舗と、商店街への出店を検討する事業者が短期間でチャレンジできるスペース「一坪開業」の設置や、「ヒトとつながる、マチをつなげる」をコンセプトに、地域の方々と一緒につくり、運営している期間限定のマーケット「つながる市」の開催など、まちなか活性への寄与を目指して、店舗運営と地域活動の両面で商店街をはじめとして地域とつながり、共に取り組みを進めています。

 

「うすい店」とは?
典型的な再開発や建築のプロセスでは、まず計画があります。次に工事がはじまり、工事が終わると竣工(完成のことをこう呼びます)し、人々によって使われるようになります。
特に大規模な計画であればあるほど、「作る」と「使う」に隔たりが起こりやすく、もちろん様々な検証やデータ収集による裏付けが事前に行われるものの、オープンしてみないとその実証性を保証することはできません。巨大な規模での検証は現実的ではないからです。つまり、蓋を開けてみなければ分からない側面がどうしても発生してしまいます。しかし、本来「作る」と「使う」は循環構造であるべきです。使ったことで得られる知見を、計画にフィードバックすることができれば、案の質の向上に繋がるからです。

生き物の場合、幼少期の成長過程であってもその意味はゼロではなく、成人するまでのプロセスでトライアンドエラーがあります。また、成人して以降の老い方についても、今までの知見や経験を活かした多様な楽しみ方があります。
再開発や建築の場合、その多くは竣工するまでのプロセスが街に対して閉ざされていて、周辺環境との関係性がほとんどゼロの状態で進行します。そして、竣工してから時が経ち、竣工直後の繁栄が失われた時、たとえば商店街がシャッター街化して活動が停止し、不動産価値が下がってしまうということが起こるのです。それぞれのフェーズに街や建物の多様な楽しみ方があるはずなのに、従来のあり方には〈旬の時期〉が発生してしまいます。これは、今までの建築計画では成長と衰退を考慮せず〈旬の時期〉のみにフォーカスを当てていたからでしょう。

工事期間中の仮囲いとシャッター街を敷地に、建物にとっての幼少期と老年期を含む長いタイムラインをデザインの問題として考えようというのが今回展示する「うすい店」のプロジェクトです。

幼少期にあたる「再開発のうすい店」は、大規模な再開発を控える前橋中心市街地の仮囲いに少しだけ奥行きを持たせ、商店の機能を挿入することで工事中も街や商店街に対して開き続ける、というアイデアです。通常の計画では閉ざされてしまう期間にアクティビティを生むだけでなく、再開発へのフィードバックの機会としても機能します。

老年期の「アーケードのうすい店」は、ロードサイド商業への移行と人口減少から少しずつ賑わいを取り戻しつつあるアーケード商店街で、シャッターを降ろしたままになっている店舗のファサードに、極薄の店舗什器を挿入します。昭和30年代に整備された全蓋式アーケードの利点を最大限に活用し、軒先1mほどの奥行きのみの最小限の面積と予算で、ローカロリーに街と関わりを持ち続け、薄く狭いことがむしろ面白くなるような提案をするプロジェクトです。
再開発だけでなく、延々と開発工事を続ける横浜駅や渋谷駅、計画から竣工まで数十年の月日がかかる都市計画道路など、巨視的な視点で見るとゆっくり動いているけれど、微視的な視点で見ると封鎖や遮断によって街のアクティビティを衰退させしまっている状況が、日本各地で見られます。「うすい店」はそんな従来の紋切り型の開発や都市計画に介入し、街を変えていくデザインの手法であり戦術なのです。

2024年11月/元木大輔

 

元木大輔(もとぎ・だいすけ)
DDAA/DDAA LAB代表。CEKAI所属。Mistletoe Community。シェアスペースhappa運営。1981年埼玉県生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、スキーマ建築計画勤務。2010年DDAA設立。2019年、コレクティブ・インパクト・コミュニティーを標榜し、スタートアップの支援を行うMistletoeと共に、実験的なデザインとリサーチのための組織DDAA LABを設立。2021年第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展参加。2021~2023年、東京藝術大学非常勤講師。

 


【本展の見どころ】 

極薄建築「うすい店」から、千代田町再開発を考える

※「うすい店」設置イメージ画像
今後、大規模な再開発工事が始まる前橋市中心市街地。本展はその来たる街の未来に向けて極薄建築「うすい店」を提案する展覧会です。「うすい店」は、工事中は仮囲いで覆われてしまう区画に商店の機能を挿入することで、工事中は閉ざされてしまうはずの場所からアクティビティを生むことを可能にするデザインです。本展を通して、まちなかの再開発、そしてその再開発の改変可能性について市民の皆さんと考えを巡らせます。


②美術館・企業・デザインスタジオによる初の3者間協働

左:「無印良品 前橋中央通り商店街」による「うすい店」の実験(企画協力:DDAA LAB) 
右:「アーツ前橋 株式会社良品計画 1Dayワークショップ《MUJI for Public Space in Maebashi》」

アーツ前橋は開館10周年を迎えた2023年より、前橋市中心市街地のにぎわい創出を目指して株式会社良品計画との協働を開始し、同年11月に県内の若手デザイナーや学生らを対象に、元木大輔氏によるデザインリサーチのワークショップ「MUJI for Public Space in Maebashi」を共同企画しました。本展はその協働体制を更に発展させ、美術館・企業・デザインスタジオの3者によって展覧会という形式を使って前橋の街に対するデザイン提案を行う、アーツ前橋初の試みです。


③建築家・藤本壮介さんを招いたトークセッションの開催

©David Vintiner                                        ©HIROMICHI UCHIDA
本展会期中の2025年2月8日[土]には、千代田町再開発の基本設計を担当する藤本壮介氏を迎えたトークセッション「『千代田町再開発』のハッカビリティ」を開催いたします。前橋の再開発に異なる方法でアプローチする藤本氏と元木氏の視点から、再開発プロセスの改変可能性やそのための異なる手法について議論を展開していただきます。

 

【トークプログラム】
元木大輔さんと考える、建築プロセスのハッカビリティ
日時|2025年1月25日 [土]  午後2時-4時
登壇者|元木大輔(本展企画協力/建築家)、宮尾弘子(株式会社良品計画)、橋本薫(前橋まちなかエージェンシー代表理事)、田中隆太(前橋市にぎわい商業課、マチスタント)
会場|アーツ前橋 スタジオ / 料金:無料  / 定員:45名
申込方法|12月24日 [火]以降に本ページよりお申込みください

「千代田町再開発」のハッカビリティ
日時|2025年2月8日[土] 午後2時-4時
登壇者|藤本壮介(建築家)、元木大輔(本展企画協力/建築家)
会場|アーツ前橋 スタジオ / 料金:無料  / 定員:45名
申込方法|12月24日 [火]以降に本ページよりお申込みください

無印良品 前橋中央通り商店街タウンミーティング in アーツ前橋
日時|2025年3月9日[日] 午後2時-4時
登壇者|中村和義/永田貴大/猪子大地/工藤浩樹(株式会社良品計画)、高橋由佳(アーツ前橋学芸員)
会場:アーツ前橋 スタジオ / 料金:無料  / 定員:40名
申込方法:以下URLよりお申込みください
https://www.muji.com/jp/ja/event/event_detail/?selectEventId=14085

 

【開催概要】
展覧会名|MUJI for Public Space in Maebashi「うすい店」展
     ―無印良品とDDAA LABが考える、建築プロセスのハッカビリティ―

会期 | 2025年1月25日[土]- 3月23日[日]
会場 |アーツ前橋1階ギャラリー(〒371-0022 群馬県前橋市千代田町5-1-16)
開館時間|午前10時-午後6時(入場は午後5時30分まで)
休館日|水曜日
入場料|無料
共催|アーツ前橋、株式会社良品計画
企画協力|DDAA LAB
協力|前橋中心商店街協同組合、株式会社ヤマト、マチスタント
DDAA LAB担当|元木大輔、村井陸、安西将也、滝実彩喜、辻そよか
株式会社良品計画担当|宮尾弘子、永田貴大、猪子大地、工藤浩樹
アーツ前橋担当|宮本武典、高橋由佳
グラフィックデザイン|UMEKI DESIGN STUDIO、Company2
什器制作|TANK

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